時代様式 ヴィクトリアン 1837-1901年


ヴィクトリア女王の時代,大英帝国は絶頂期を迎えます.国運を賭けた危機に何度も直面しながら克服し,大英帝国の植民地支配の6割は,この時代に実現しました.正に「太陽の没することなき国」になったのです.
この約60年にもわたるヴィクトリア女王の時代はヴィクトリアンとして知られています.しかし,ヴィクトリアンの特徴は過度な装飾ではなく,謹厳実直さでした.これは当時の世相を反映しているのですが,その時代を生きた謹厳実直な人の良い例がヴィクトリア女王,その人です.
皆さんもヴィクトリア女王の肖像画を見たことがあると思いますが,黒い服を着ていませんでしたか?実は,あれは喪服なのです.最愛の夫で,政務の助言者,世界初の万博を企画・立案そして成功させたアルバートを亡くしてから彼女が死ぬまでの約40年間,喪に服し続けていたのです.

それほどまでに愛していた夫とともにヴィクトリア女王は「模範的家庭」を築きます.
そして,それは英国市民の間でも一種の憧れとして広がり,「健全な中流的生活」が
この時代の特徴となります.
また,キリスト教的道徳観が高まった結果,建築の世界では中世キリスト教ゴシック様式への
回帰,ゴシック・リヴァイヴァルが興ります.一方で,古代ギリシア・ローマを模範とした
新古典主義も大きな流れとして残っており,これらが共存している状態でした.

加えて,新しい流れも生まれます.
英国発祥の運動である「アーツ・アンド・クラフト」が大陸を経て「アール・ヌーボー」
逆輸入される時期はちょうどこの頃です.また,アール・ヌーボーの華やかさとは逆に,
重厚な作りの家具が多いのも,この時代の特徴です.