ジャックナイト ツインカム(2)
•マーズスピード ストーリー
ジャックナイト ツインカム(2)
1994年に発行されたモーターファン別冊の 特集MINIスペシャルで掲載された記事です。
1994年に発行されたモーターファン別冊の 特集MINIスペシャルで掲載された記事です。
英国人 モータージャーナリストのIan Kuah氏が 直接 英国マーズスピードに来訪され 取材した記事です。 (ちなみに 撮影された場所は 会社のすぐ近所にあるストックブリッジという場所で とてもきれいな町です。
まず掲載された記事です。
本文
1.3リッターに満たないキャパシティにパーフェクトなツインカム16バルブをフィットしたミニは パワーを有効に引き出すギアボックスと合体すると 無気力なハイパーホットハッチなど蹴散らしてしまうのである。
タイトな右コーナーで始まるA3057号線は、絵画のように美しいストックブリッジの街から高い丘へと続いている。視界が開けるとストレート。3速で全開まで引っ張って、4速へとシフトアップできる。いかにチューンドミニといえども、物理法則に逆らうのは難しい。これまでステアリングを握ったことのあるどんなミニ・ロードコンバーションでも、この長いヒルクライムの頂に近づくにつれて勢いを失ったに違いない。ところが、5スピードトランスミッションを備えたジャックナイト16バルブ・ツインカムにはそれが当てはまらず、めくりめく走りを体験させてくれたのである。そのトルクは、これまでミニでは体験したことのないものだったので、わずか1275ccの16バルブエンジンとはとても思えなかった。シリンダーあたり4バルブのエンジンはさんざんは走らせてきたが、ことにジャパニーズカーには、高回転域がどれほど優れていたとしても低い回転域が不足していることを痛感した。トヨタ、ニッサン、ミツビシ、ホンダという日本の読者にお馴染みのクルマは、たとえ1.6リッターのキャパシティが会ったとしても低回転での無気力感が否定できない。ジャックナイトが手掛けたこのクルマからすれば、それらのエンジンなど問題にならないほどだ。しかも, 1275ccで120bhp足らずとはいえ、抜群のロースピードトラクタビリティ、リッターあたりのアウトプット、さらに厳しい日本のエミッション規制もクリアできる状態にあるのである。このクルマは、350rpmから4000rpmあたりで120bhp近いパワーと110lb-ft(15.20kg-m)のトルクを発生するので、ブレーキにも気を配る必要がある。そこで、4ポットベンチレーテッドディスクをフロントに、リアは強化ドラムとして、スプリットサーキットのマスターシリンダーがツインで搭載されている。このシステムは、仮に片方のサーキットがトラブルを起こしても、フロント両輪とリアの片方は必ず機能するようになっているのである。また6Jx13インチのホイールにはピレリP7がはまっており、サスペンションのラバーコーンにはレートアップされている。ジャックナイト・デベロップメント社は、マーズスピード社にシリンダーヘッドを供給しており、現行のミニがマーズスピードでツインカムの5スピード・ミニに仕立て上げられ、ジャックナイトの日本総代理店ニチオー・トレード・サービス社を通じて日本の正規代理店で販売されている。マーズスピード社のクボカワ取締役によれば“2年間でおよそ80台を造り、コンバーションはすでに完璧なレヴェルにあるので、売ろうと思えばもっと売れたのでしょうが、長い間レーシングカー造りにかかりきりで、その間ロードコンバーションの製作はストップしていたのです”ということだった。日本のクライアントのために造った6台のレーサーは出るレースにことごとく優勝した。最初のクルマは5 レースに参戦し、クボカワ氏とテリー・サンガーのドライヴで5度優勝。その過程で、フジ・ツクバ・TIの各サーキットで4つのラップレコードを残した。マーズスピードの開発エンジニアでもあるテリー・サンガーは、華々しいレース戦歴を持つ男である。筆者が訪れた時、ピット内で作業を受けていたレーサーミニはノーマルの28/24mmバルブながら、明らかに190bhpはありそうだった。実はポート研磨もされていないのだから、設計上ではさらにパワーアップできる可能性を秘めているわけだ。もはや、マーズスピード/シャックナイトカーを手に入れなければレースには勝てないところまできているのである。クボカワ氏は、長年にわたってニチオー・トレード・サービスにパーツを供給してきた。ミニのスペアパーツやアクセサリー、レーシングパーツ、MGのようなブリティッシュカーを中心としたクラッシックカーなどに関しては草分け的存在である。89年、彼は順調なビジネスのためにはイギリスに本拠を置くのが得策と考え、ウィンチェスターに店を開くべく日本をあとにした。現在、マーズスピードがニチオー・トレード・サーヴィスに供給しているのは、クラッシックから現行に至るミニ用パーツ、ジャックナイトのシリンダーヘッドやギアボックス、16バルブコンプリートカー、そしてツインフューエルタンクを積んだクーパーSそっくりのクルマ、バランスどりと軽量化されたエンジンにステージ2/ステージ3シリンダーヘッドを組み込んだクルマなど。こうしたものを含めて30タイプもの5スピード・ミニが、日本の道路を走っているのである。取材旅行の帰路、筆者は満ち足りた気分だった。この1ヶ月で、パディ・ホプカープの65年ラリーカー、94年モンテカルロ出場車などを含む、多くのチューンド・ミニを見てきたが、締めくくりにドライヴしたのがマーズスピードのミニであったことを、ラッキーに思った。引退レースを優勝で飾ったレーシングドライヴァーのように、94年のチューニングシーンを巡る始めから終わりまで最高の気分でフィニッシュできたのである。ただ、言わせてもらうなら、“あのマーズスピードカーを1,380ccいっぱいまで拡大したらどんなクルマになるのだろう”という疑問が頭の中で渦を巻いていたことは確かだ。
Ian Kuah著