英国伝統のイス張り技法(Upholstery)1
英国では椅子に詰め物を入れて生地を張ることを、「upholstery(アポルスタリー)」といいます。畳に座る習慣のある日本と違って、西洋においての椅子の歴史は長く、現代のようにウレタンなど石油製品で作られた材料が無かった当時は、馬毛やココナッツ・ヘアなどの天然素材が用いられていました。一方、現在の椅子は、ベニヤ板の上にウレタン・フォームをクッションとして置き、その上に生地を張る方法が最も簡単で安価なので、日本も含め世界で主流となっています。
しかし、伝統技法に従い天然素材を用いた椅子の座り心地は最高で、
フォーム・クッションを使用した椅子との違いは明らかです。
この伝統的な椅子張りの技法は18世紀末期に確立されたものです。
英国だけではなくフランス、ドイツでも職人達によって大事に引き継がれており、
今では最高級品にのみ用いられている技法です。究極の技ともいえる高度な技能が
必要で、職人の長い経験が要求されるものです。
この張り方での耐久年数は使い方にもよりますが、ビクトリア期の椅子で一度も張り替えた形跡が見当たらないものもあることから、100年以上使用可能ということになるでしょう。また、詰め物もホースヘア(馬毛)やココナッツ・ヘアなどの自然のものを使用するので、洗いなおして (但し、洗剤は使いません。)再利用できるため、無駄がありません。
更に、同じ木枠(ウッド・フレーム)を用いても、実に色々な形の椅子に仕上がります。どんな形にするかを初めの段階で考え、それに従ってホース・ヘアを縫い上げていくのですが、仕上げの生地をどうするか、縁取りをどうするかで、同じ木枠から全く違う姿の椅子が出来上がるのです。私自身も、10年以上にわたって修行していますが、椅子張りUpholstery)の技術は奥が深く、未だにすべてをマスターできていません。(ちなみに私の師匠のアーサーは90歳近いおじいさんですが、すごい技術を持った方で、とても彼には追いつけません。)
マーズ・スピード・ジャパンで扱っておりますアンティーク・チェアは、張替えの必要のない椅子はそのままに、張替える場合でも、すべて元来の工法に忠実に従って張り替え(upholstery)しております。但し、日本国内で張り替えたものにつきましては、ホース・ヘア(馬毛)が手に入らないため、他のもので代用していますが。